最期の夏
裕也、
今、私が教えている学生たち、大学2年生で、19歳から20歳になる子たちなんだよ。
みんな、素直で、真面目で、良い子たちだよ。
来週が前期最後の授業。
それから夏休みに入るの。
夏休みが明けたら、また後期の授業で再会することになる予定。
予定…。
ふとね、重なった。
裕也が過ごした最期の夏もこの子たちと同じ年齢の夏だったよね。
前期を終え、夏休みに入り、後期にはまた登校する、って。
裕也の事故からお通夜、お葬式。
その翌日が私、後期最初の授業だった。
裕也が一番行きたい国だったドイツ。
私が通訳する!って履修したドイツ語が後期1限の授業だったんだよ。
だからね。
時を経て、そんなことがいきなり重なって、
学生たち全員と後期も元気な姿で再会したいな、って、
当たり前のことだろうけれど、
それだけに
大げさ過ぎるかもしれないけれど、
裕也の先生はきっとそれが叶わなかったから。
だから、私、当たり前を当たり前に思えなくて、
お願いだから、みんな、生きて、また後期に会おう、会いたい、必ず再会しよう、って、願わずにはいられない。
そんなことを考えたら、
あの子たちのこの夏は、
裕也のあの夏は、
なんだか、私にとっては、言葉にできない、涙が溢れるほどの思いが込み上げてくる。
10年前になろうとしているあの夏。
あれから10年経った同じ年齢の子たちの夏。
なんだかね…。